高THC大麻抽出物、卵巣がんに対する有効性に加え、抗がん剤との相乗作用も

高THC大麻抽出物、卵巣がんへの有効性に加え、抗がん剤との相乗作用も

- イスラエルの基礎研究

11月3日、THCを主体とした大麻抽出物が卵巣がん細胞に対し抗がん作用を示したことがイスラエルの研究者らにより報告されました。

卵巣に発生する腫瘍には上皮性腫瘍、胚細胞腫瘍、性索間質性腫瘍といった種類があり、これらのうち悪性のものを総じて卵巣がんと呼びます。早期(ステージⅠ、Ⅱ)に発見できれば手術で除去できますが、早期発見自体が難しいという特徴があり、ステージⅣまで進行すると5年生存率は30%以下とされています。また、手術しても2年以内に半数以上が再発するとも言われています。

今回の研究では、まず5種類の大麻抽出物を用いて、卵巣がん細胞HTB75に対する毒性を検証。その結果、高濃度のTHCを含有した大麻抽出物で最も高い毒性が示されました。ただしこの効果は、卵巣がんに用いられる経口治療薬「ニラパリブ」よりも劣っていました。

次にこの大麻抽出物に含まれている成分を色々と組み合わせたり、濃度を変更したりして8種類の抽出物(F1〜F8)を作成し、同じように抗がん作用を検証。このうち、F5とF7が20μg/mlの用量でオリジナルの抽出物だけでなく、ニラパリブよりも高い毒性を示しました。

F5及びF7に含まれていたカンナビノイドは以下の通り。

F5:
THC 91.7%、CBG 3.7%、CBN 4.6%

F7:
THC 68.9%、CBC 23.5%、CBG 1.3%、CBN 1.9%、CBDV 1.8%、CBDVA 0.9%、THCA 1.7%

テルペンに関しては、F5では主にグアイオール、ネロリドール、オイデスモールなどが、F7ではカリオフィレン、セリネン、グアイエンなどが含まれていました。

興味深いことに、この2つの抽出物とほぼ同様の組成のカンナビノイドのみを含んだ混合物(F5-SM、F7-SM)で抗がん作用を検証すると、テルペンも含んだ大麻抽出物F5、F7よりも高い毒性が認めらました。これは大麻抽出物による抗がん作用が主にカンナビノイドによって認められ、テルペンが部分的に拮抗作用していた可能性を示しています。

さらに、卵巣がん細胞に対し最も有効性の高いカンナビノイドの組み合わせや比率も検証。F7におけるTHC+CBC(7.5:2.5)と、THC+CBC+CBG(7.4:2.5:0.1)の組み合わせで、それぞれ最も高い毒性が認められました

続いて大麻抽出物F5及びF7、カンナビノイドのみの混合物F5-SM及びF7-SMを用いて、卵巣がん細胞(HTB75)に対するアポトーシス(細胞死)誘導能を検証。

大麻抽出物およびカンナビノイド混合物は全て、HTB75に対し80%以上のアポトーシスを引き起こし、その能力はニラパリブ(64.1%)よりも優れていました。ただし、別の卵巣がん細胞であるHTB161に対しては、大麻抽出物およびカンナビノイド混合物はアポトーシスを誘導したものの、ニラパリブより劣っていました。

また、大麻抽出物(F5、F7)とカンナビノイド混合物(F5-SM、F7-SM)、ニラパリブとの相乗作用を調べた結果、大麻抽出物とニラパリブはHTB75細胞に対し高い相乗作用を示した一方、カンナビノイド混合物ではやや効果が増幅する程度に留まりました。別の卵巣がん細胞HTB161に対しては、F7とニラパリブのみが高い相乗作用を示しました。

これらはニラパリブと大麻抽出物との相乗作用に、テルペンなどのカンナビノイド以外の成分が大きく関与している可能性を示しています。ただし、別の抗がん剤であるゲムシタビンを用いたHTB75に対する相乗作用の検証では、カンナビノイド混合物であるF5-SMとの間でのみ相乗作用が認められました。

F5及びF7とニラパリブとの併用は正常な細胞(HaCaT細胞)に対してはほとんど毒性を示さず、卵巣がん細胞(HTB75)に対する毒性は正常な細胞のおよそ50倍以上であり、がん細胞に対し特異的に作用することも明らかとなりました。

最後に、卵巣がん患者のリンパ節から採取した細胞を用いて、大麻抽出物(F5及びF7)とニラパリブの併用による抗がん作用を検証。ニラパリブ単体ではわずかな有効性しか示されませんでしたが、F7とニラパリブの併用では実質的な細胞死が引き起こされ、有効性が認められました。

他にもこの研究では、大麻抽出物(F5、F7)やカンナビノイド混合物(F5-SM、F7-SM)による抗がん作用が、CB2受容体またはTRPV2を介していた可能性なども示されました。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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