THC、心筋保護剤としての可能性を示す

大麻成分THC、心筋保護剤としての可能性を示す

2022年4月2日、THCが心筋保護剤としての役割を果たす可能性を示した論文が、カナダとポーランドの研究者らにより公開されました。

この研究は、心筋虚血後の再灌流さいかんりゅうによる心機能障害に対して、THC(テトラヒドロカンナビノール)が有効であるのかを検討した基礎研究です。

※再灌流・心筋虚血とは

動脈硬化などにより狭窄あるいは閉塞した血管を治療することにより、血流を改善することを再灌流と呼ぶ。心筋虚血とは、心臓の血管(冠動脈)が狭窄あるいは閉塞し、心筋が壊死し、心臓の機能が低下した状態のことを指す。心筋梗塞や狭心症が該当する。

心筋梗塞や狭心症の急性期には、PCI(経皮的冠動脈インターベンション)やCABG(冠動脈バイパス手術)といった心臓の血流を改善する治療が、状況に応じて行われます。発症してすぐに治療できれば良いのですが、治療までに時間がかかってしまうと、血流改善によりかえって心臓や他の臓器にまでダメージを与えてしまいます。これを虚血再灌流障害と呼び、酸化ストレスの増加や局所の炎症亢進などによる細胞障害が原因として考えられています。

THCはCB1CB2受容体に対し、部分作動薬として作用します。CB1受容体は主に脳に、CB2受容体は主に免疫細胞に存在しますが、心臓や血管においても存在することが示されています。またTHCは、抗炎症・抗酸化作用があることでも知られています。

2006年の研究では、THCは心筋のCB2受容体を活性化し、虚血後の心筋細胞を保護することが示されています。

これらのことから、虚血再灌流障害においてもTHCがポジティブな効果をもたらすのではないかという仮説が立てられ、今回の研究が行われました。

研究は虚血を起こしたマウスとヒト心筋細胞で行われ、THCは虚血前と再灌流後10分間において投与されました。その結果、THCは再灌流後の細胞障害を軽減し、心筋細胞の生存率を高め、心機能を回復させることが示されました

この結果から研究者らは、虚血再灌流(PCIやCABGといった治療)前にTHCを使用することが心筋保護剤として有益であり、大麻製品を用いての臨床試験の実施を希望すると述べています。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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