2022年7月7日、大麻成分THC(テトラヒドロカンナビノール)とCBD(カンナビジオール)が糖尿病治療薬であるアカルボースを上回る作用を示したことがタイやパキスタンの研究者らにより報告されました。
体内に取り込まれた炭水化物はαアミラーゼと呼ばれる消化酵素によって二糖類に分解された後、α-グルコシダーゼによって単糖類にまで分解され、腸から血液中に吸収されます。糖尿病治療薬アカルボースはα-グルコシダーゼを阻害することにより糖の消化・吸収を低下させ、食後の急激な血糖値上昇を抑制する薬です。
2021年の研究ではCBDがα-グルコシダーゼ阻害作用を有することが報告されましたが、THCではまだ未検証となっていました。そこで今回はインシリコ(コンピューターによるスクリーニング)とインビトロ(試験管内での試験)の研究においてTHCとCBDのα-グルコシダーゼの阻害作用が検証されました。
インシリコ解析において、THCとCBDはともにα-グルコシダーゼに対し親和性と相互作用を示しました。薬物動態・毒性の評価では、THCもCBDも優れた特性を有しており、毒性が低いことが示されました。
インビトロでは、アカルボースのα-グルコシダーゼのIC50が488.6μg/mlであったのに対し、THCは3.0μg/ml、CBDは5.5μg/mlといずれもアカルボースよりも強力なα-グルコシダーゼ阻害作用を有することが明らかとなりました。
※IC50とは?
対象となるものを50%以上阻害する濃度。数値が低いほど阻害作用が高いことを示す。
さらに今回の研究では、大麻草の花からの抽出物と葉からの抽出物においても検証が行われました。
今回使用された花からの抽出物は葉からの抽出物よりもTHCが3.6倍、CBDが1.8倍含まれており、花からの抽出物のCBD/THC比は1.3(THC1.9%、CBD2.5%)で、葉からの抽出物のCBD/THC比は0.7(THC6.9%、CBD4.5%)でした。
検証の結果、花・葉からの両抽出物においてTHCやCBD単体よりも強力なα-グルコシダーゼ阻害作用が認められました(IC50:花0.16μg/ml、葉1.2μg/ml)。
過去の研究により、大麻草に含まれるβカリオフィレンなどのテルペンやアピゲニンやケルセチンなどのフラボノイドにおいてもα-グルコシダーゼ阻害作用が示されていることから、両抽出物の強力なα-グルコシダーゼ阻害作用はTHCやCBDに加え、大麻草に含まれる様々な成分が組み合わさることによるアントラージュ効果がもたらしたものだろうとしています。
これらの結果に対し研究者らは、今回使用したTHCとCBDを含む大麻草の花あるいは葉からの抽出物は2型糖尿病患者のための新たな治療薬として強く推奨できるとする一方、今後有効性と安全性を十分評価するために臨床試験や質の高い基礎研究を行っていく必要があると述べています。