CBDはコカイン依存症の有望な治療薬 最新研究で明らかに

- ブラジルの臨床試験

大麻成分CBDがコカイン使用障害(依存症)における強力で有望な治療薬である可能性が報告されました。論文は「International Journal of Mental Health and Addiction」に掲載されています。

麻薬、アルコール、タバコ、ギャンブルなど、この世界には依存性のあるものが多くあります。これらの経験は脳内のドーパミンを増加させることで「快感」をもたらします。そして、この快感を繰り返し経験するほど、「もう一度経験したい」という気持ち(渇望)が強くなり、依存が形成されていきます。

大麻を使用すると”ハイ”な状態になりますが、これは大麻に含まれるTHCという成分が脳にあるCB1受容体を活性化することで、脳内のドーパミン量を増加させるからだと考えられています。そのため、比較的依存性は低いものの、大麻にも依存性があります。

ここで注目したいのが、脳内のCB1受容体の働きです。というのも、この活性化が脳内のドーパミン量の増加をもたらすということは、逆にこの受容体の働きを邪魔すればドーパミンの増加が起こらないと考えられるからです。

それゆえに、CB1受容体を始めとしたエンドカンナビノイドシステム(ECS)は、依存症全般において治療のターゲットとなる可能性を秘めています

大麻は不思議な植物であり、CB1受容体を活性化するTHCという成分がある一方、CB1受容体の働きを邪魔してTHCの効果を減弱させるCBDという成分も含まれています。つまり、このことはCBDが依存症や物質使用障害において有効となる可能性を示しています。

コカイン使用障害におけるCBDの有効性は、すでに動物での研究においていくつか報告されています。しかし、ブラジルカナダで行われた2つの臨床試験では、CBDはコカイン使用障害の渇望や離脱症状に対し有効性を示すことができませんでした。

コカイン使用障害患者を対象とした臨床試験

ブラジルの研究チームは、クラック使用障害患者においてCBDの有効性を検証する臨床試験を実施。クラック(クラック・コカイン)とは、元々粉状となっているコカインを結晶化させたものです。

研究対象となったのは、1年以上定期的にクラックを使用しており、過去30日間に少なくとも20回クラックを使用した18〜65歳の患者73名。参加者はCBD群(36名)と対照群(37名)の2グループにランダムに振り分けられ、それぞれ割り当てられた治療薬を服用しました(二重盲検ランダム化比較試験)。

この研究で使用されたCBD製品は、1mlあたり50mgのCBDを含むTHCフリーの精製CBDオイル。一方、対照群には物質使用障害に用いられる治療薬(フルオキセチン、バルプロ酸ナトリウム、クロナゼパム)が用いられました。

さらに、CBD群は治療薬の代わりにプラセボカプセル、対照群はCBDオイルの代わりにプラセボオイルを服用しました。

研究期間は10週間。CBD群の患者はCBDを300mg/日から服用し始め、2〜8週目では600mg/日の用量で服用。8〜9週目では300mg/日に減量し、最終週では服用が中止されました。

CBDオイルの有効性や安全性の評価は、週に1回(一部は月に1回)のアンケートや専門家との面談を通して行われました。

副作用が少なく、処方薬とほぼ同等の効果

CBD群20名、対照群14名が少なくとも5週間研究に参加し、CBD群15名、対照群10名が全ての試験を完了しました。

その結果、CBD群では対照群と比較して、下痢、便秘、吐き気、めまい、記憶障害、集中力低下、振戦、運動失調、鼻詰まりの副作用が有意に少なかったことが明らかに。

それにも関わらず、CBD群では通常の治療薬を服用した対照群と同様、有意にクラックの使用量減少、健康状態の改善、渇望の減少が認められました。

※T0=治療開始前、T1=5週目、T2=9週目、T3=研究終了時

<クラック使用量>

CBD群:T0-T1、T0-T2間で有意に減少
対照群:T0-T1間で有意に減少
両群で有意差なし

<健康状態の自己評価>

CBD群:T0-T2間で有意に改善
対照群:有意な改善なし
両群で有意差なし

<身体及び精神的愁訴>

CBD群:T0-T1間で有意に改善
対照群:T0-T1間で有意に改善
CBD群よりも対照群で有意に改善(T0-T1間)

<食欲低下

※コカイン使用時では通常、食欲低下が認められる(離脱期では逆に増加)

CBD群:T0-T1、T0-T2間で有意に改善
対照群:T0-T1間で有意に改善
両群で有意差なし

<渇望>

CBD群:T0-T1、T0-T2間で有意に減少
対照群:T0-T1、T0-T2間で有意に減少
両群で有意差なし

これらの結果から、著者は「CBDはエンドカンナビノイド受容体のシグナル伝達を減少させ、脂肪酸アミドヒドロラーゼを阻害することから、クラック使用障害患者の渇望を軽減し、再発率を低下させる可能性がある」

「CBDは安全で忍容性の高い製品であり、臨床的および精神医学的愁訴の軽減においてより効果が優れていた対照群と比較して、有害事象が有意に少なかった。 群内分析では、CBD群は対照群よりも多くのパラメータで良好であり、クラックの使用を減らし、クラック使用による食物摂取の減少をもたらさず、自己評価による健康状態の改善も大きかった」

「本研究の主な結果は、CBDがクラック使用障害患者にとって強力で有望な治療手段であることを示唆している。CBDは食欲不振、クラックの使用を減らすことの困難さ、体調不良など、参加者から報告された主な症状を緩和するようである。さらに、CBDは通常の向精神薬の使用に伴う主な愁訴である有害事象が軽度であるという点で際立っている」と述べています。

ただし、この研究にはサンプルサイズが少ないこと、参加者が男性に偏っていたこと、自己投薬で行われたこと(指示通り服用できたか確証がない)など、いくつかの限界があります。そのため、今後の研究ではこれらの改善点を踏まえ、さらなる研究を行う必要があると著者は述べています。

なお、「治療」という観点ではなく、「ハームリダクション」という観点では、他の依存性物質よりも有害性が低いとされる大麻そのものの使用が物質使用障害において有効となる可能性があります。

例えば、ミシガン州では最近、オピオイド、覚醒剤、アルコールなどの依存に悩む人々に対し無償で大麻を提供した結果、これらの物質の使用量や使用頻度の減少、離脱症状の管理能力の向上、不安の緩和睡眠の改善など、様々な有益性が認められたことが報告されています

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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