これまでの基礎研究や臨床試験を包括的にレビューした結果、栄養補助食品としてのCBDの1日最大摂取量は持病や服用中の薬がない人で70mgであり、妊活・妊娠・授乳中の人を除けば160mgまで安全である可能性がアメリカの研究者らにより報告されました。論文は「Regulatory Toxicology and Pharmacology」に掲載されています。
今年1月、米国FDAは安全上の懸念から食品や栄養補助食品としてCBDを規制することを断念し、これらの規制法案の策定を連邦議会に委ねる方針を明らかにしました。
このような中、著名なCBD企業である「シャーロッツ・ウェブ(Charlotte’s Web)」は、CBD業界の主要な利害関係者を団結させた「ワン・ヘンプ(ONE HEMP)」を結成。
ワン・ヘンプはFDAや連邦議会に対し科学的なリソースを提供することで、CBDを栄養補助食品として扱うための規制基準の作成を要求し、消費者の安全を確保することを目的としています。
今回の研究は、このワン・ヘンプに委託された研究者たちにより実施されました。
CBDに関する既存の有害事象及び毒性データを分析
研究者らはまず、臨床試験におけるCBDの有害事象(副作用)を評価したシステマティック・レビューを同定し、それらの論文を徹底的に分析。さらに、動物実験におけるCBDの毒性データを収集し、それぞれの研究の質と関連性を評価しました。
これらにより絞り込まれた質の高いデータを活用し、最終的にCBDの1日最大摂取量が導き出されました。
このレビューでは特に、CBDの潜在的な有害性として指摘されている「肝毒性」と「生殖毒性」に焦点が置かれています。
健康な成人におけるCBDの1日最大摂取量は160mg
人(小児も含む)の肝臓に対するCBDの影響を評価したシステマティック・レビューのうち、基準を満たした1件の分析を活用。その結果、CBD1,000mg/日以上の摂取及びパルプロ酸ナトリウム(抗てんかん薬)の併用が肝酵素の上昇(肝臓へのダメージ)と有意に関連していたことが明らかに。CBD300mg/日以下の摂取では、肝酵素の上昇は認められていませんでした。
続いて、CBDの毒性評価を行った動物実験のうち質が高いと判断された研究から、CBDが精子や卵子の形成、性ホルモン、胎児などに及ぼす有害性を評価。これにより、雌のラット及びその新生児において100mg/kg/日の量が無毒性量(NOAEL)であると判断されました。
ラットにCBDを様々な量で90日間経口投与し安全性を評価した研究では、甲状腺(肥大化)、副腎皮質(空胞変性)、電解質(ナトリウムとクロール値の低下)などに対する非悪性で可逆的な影響を確認。体重70kgの健康な成人において、CBD161mg/日の摂取が安全であることが示されました。
これらの結果から、小児を含む全年齢が毎日生涯かけて摂取し続けても健康に悪影響が生じないと判断されたCBDの1日摂取量(ADI)は、0.43mg/kg/日(成人では30mg/日程度)。
持病がなく、何の治療も受けていない健康な成人におけるCBDの1日最大摂取量(UL)は70mg/日。
妊活中の男女、妊娠・授乳中の女性を除く健康な成人におけるCBDの1日最大摂取量は160mg/日であることが示されました。
そのため、研究者らはCBD製品のラベル表示にあたり、特定の集団に応じた具体的な表示が必要になると指摘しています。
ただし、これらの推奨値は本研究の研究者による評価のみに基づいたものであることから、規制ガイドラインとしてみなされるべきではないと述べられています。
今回の研究では他にも、CBDに関して以下のようなことが記載されています。
・最近では遺伝毒性に関するエビデンスも蓄積されており、純粋なCBDではこれらの毒性がないことが示されている。
・発がん性に関する報告はなく、逆に腫瘍の減少が観察された報告が存在する。
・上気道感染への影響も報告されているが、肝臓への影響と比べはるかにリスクが低い。
CBD企業には消費者の安全を守る責任がある
今回の研究で示された健康な成人におけるCBDの1日最大摂取量は、他の国で推奨されている量と類似しています。
イギリス食品基準庁(FSA)は2020年2月以降、妊娠・授乳中ではない健康な成人において、食品や栄養補助食品によるCBDの1日最大摂取量を70mgと推奨。
オーストラリアの医療管理局(TGA)は、処方箋なしで薬剤師が健康な成人にCBD製品を提供する場合、最大150mg/日までを認めています。
カナダ保健省は2022年、健康な成人が短期間(最大30日間)使用する場合に限り、CBDを20〜200mg/日の用量で経口摂取することは安全であると結論づけています。
今回の研究を主導したレイエッタ・G・ヘンダーソン(Rayetta G. Henderson)博士はプレスリリースで「本研究で示された健康な成人による栄養補助食品の摂取上限量は、主要な規制機関(カナダ保健省、TGA、FSA)による勧告とよく一致しているだけでなく、潜在的な副作用に対する安全性の十分なマージンも確保しており、CBDの消費に向けた安全な枠組みを確立するのに役立ちます」とコメント。
シャーロッツ・ウェブ社の最高科学責任者であり、本研究にも参加したマルセル・ボン・ミラー(Marcel Bonn-Miller)博士は「この研究は、CBDを含むサプリメント製品の製造とラベル表示の要件を決定する際に、立法者と規制当局に情報を提供するのに役立つでしょう。
科学的根拠に基づいた安全制限を実施することは、消費者を保護するために極めて重要です。この研究はまた、製品の正確なラベル表示と、最終的にはCBD企業が高品質で安全な製品を製造・販売する責任を負うことを求めるワン・ヘンプの提言とも一致しています」と述べています。
持病や服用中の薬がある人は、医師への相談が必要
今回の研究において重要なのは、持病がなく、いかなる薬も服用していない健康な成人を対象にしている点です。
前述のように、CBDは高用量で肝毒性をもたらす可能性が示されていることから、肝臓に疾患を有する人ではより低い用量で肝臓に影響を与えるリスクがあります。
また、CBDは薬との相互作用があることで知られています。これは、CBDが肝臓においてシトクロム(CYP)450と呼ばれる酵素(特にCYP3A4、CYP2C19)によって代謝されることにより生じます。
例えば、CYP3A4阻害剤であるワーファリン(抗凝固薬)を服用中の人がCBDも摂取してしまうと、ワーファリンの効果が増強され、出血リスクが高くなってしまいます。
なお、今回の論文の考察部分では、高濃度CBD製剤「エピディオレックス」750mgを1日2回または20mg/kg/日を超える用量で服用した場合に、薬との相互作用が認められる可能性が報告されていると述べられています。
これらのことから、思わぬ副作用や病状の悪化を避けるためにも、持病や服用中の薬がある人はCBDを使用する前に、医師や薬剤師に相談することが推奨されます。
アメリカがCBDを栄養補助食品として規制するための”ガードレール”を模索している中、香港は今年2月よりCBDを危険ドラッグに指定。最近ではイタリアがCBDを麻薬に分類しました。
欧州食品安全機関(EFSA)は昨年6月、CBDは医療用としては許容できるものの、食品としてはその作用メカニズムの複雑さや薬との相互作用、潜在的なリスクから、現時点で安全性を確立することはできないと結論づけています。
日本でも徐々にCBDの認知度が高まっていますが、CBDの流通にあたり具体的な規制が存在しません。しかし、これまでの研究で明らかになっていることを考慮すると、消費者の安全を守るためには一貫したルール作りが望まれます。
少なくとも、統一されたラベル表示や製品検査、妊娠・授乳中の人や持病及び服用中の薬がある人に対する注意喚起は必須となるでしょう。
これらの規制がない今、まずは各CBD企業が消費者の健康に対し責任を持ち、適切なラベル表示や注意喚起を行っていくことが大切であると筆者は考えます。