スポーツ選手の大麻所持によって揺れる米国とロシアの関係と国際情勢

スポーツ選手の大麻所持によって揺れる米国とロシアの関係と国際情勢

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現在、あるスポーツ選手が大麻抽出物を所持し逮捕されたことで米国のスポーツ界を起点に政界を巻き込み、国際問題に発展している出来事が起こっています。

その選手は、米国の女子プロバスケットボールリーグ「WNBA」フェニックス・マーキュリーのスター選手であるブリトニー・グライナー(Brittney Griner)。

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ブリトニー・グライナー選手

事の発端はロシアによるウクライナ侵攻が始まるちょうど1週間前の今年2月17日、ロシアのプロリーグに参加するためにロシアへ入国しようとした際にシェレメチェボ空港で入国手続きを受けていた最中にブリトニー・グライナー選手が逮捕されたこと。

ウクライナへの侵攻によって不穏な空気が漂うロシアで、逮捕から4カ月半を超えた現在も拘束されています。

逮捕の理由は、ハシシオイルを含んだベイプカートリッジの所持でした。

ハシシオイルとは?

ハシシオイルとは、濃縮された大麻の抽出オイル。ハイになる成分THCが非常に高く、陶酔感を引き起こし、痛みや炎症を和らげるのに役立つ。米国の一部の州を始め合法としている地域もあるが、ロシアでの所持や使用は違法。

ブリトニー・グライナー選手とは

単に女子バスケットボール界のスーパースターであるとか、オリンピックでの金メダル2回という説明では物足りないほどに女子バスケットボールというスポーツの歴史において最高の選手であり、スポーツ界における米国の宝。

日本で昨年開催された東京オリンピックの決勝戦でも、日本代表を破り見事金メダルを獲得し米国代表の7連覇に貢献したこともあり、記憶に残っている方も少なからずいるのではないでしょうか。

身長は、6フィート9インチ(約206 cm)。

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2021年8月8日 東京五輪 女子バスケ決勝 日本 vs 米国

ホワイトハウスは「不当拘束」と断言

ブリトニー・グライナー選手の支援者は、ロシアによるウクライナ侵攻が起きる中で政治的人質に利用された懸念があると釈放を求めて動いています。

それに対しホワイトハウス報道官カリーヌ・ジャンピエール(Karine Jean-Pierre)氏は、「私たちは、ロシアがブリトニー・グライナーを不当に拘束したと考えており、彼女は今、耐え難い状況にあります。私たちはできる限りのことをするつもりであり、大統領は本件を最優先に考えており、ブリトニーを安全に帰国させることを確認します。私たちは、海外で不当に拘束されている米国人、不当に拘留されている米国人、人質になっている米国人に関して、できる限りのことをし、あらゆる手段を使って、帰国させるつもりである」と述べています。

また、「Free Brittney.(ブリトニーを解放せよ)」という声が各界から上がっています。(下記はヒラリー・クリントン氏のツイート)

ロシア政府は法律に則った運用と明言

ロシアの外務大臣報道官は、大麻の所持を違法としているロシアにおいて法律通りに運用したまでであり、今回不適切なことは何もなかったと明言。

さらに、大麻所持は米国のいくつかの州においても処罰の対象になっていて罰せられると言い切りました。

ロシアでは、最高で懲役10年の刑となります。

バイデン大統領との文通

事態が硬直化する中、7月1日にモスクワ市郊外の裁判所で公判が開始。

ブリトニー・グライナー選手は、7月4日のアメリカ独立記念日に合わせて自身の想いを手紙につづり代理人を通じてホワイトハウスへ送付。

一部公開された手紙の文面には、「私はロシアの刑務所で座り、一人で考えています。妻(ブリトニー選手は同性愛を公言)、家族、友人、オリンピックのジャージ、どんな成果にも守られず、永遠にここにいるのではないかと恐れています」と胸中を明かし、「あなたが多くのことに対処していることは理解していますが、私や他の米国人拘束者を忘れないでください。私たちを帰国させるために、できる限りのことをしてください」とバイデン大統領に支援を訴えかけました。

2回目の公判となった7月7日には、米外交官がブリトニー選手にバイデン大統領からの返信の手紙を手渡す場面がありました。

また、ホワイトハウスはバイデン大統領がブリトニー・グライナー選手の妻と電話で話し、できるだけ早く自由を勝ち取るために動いていると伝え安心させたことを発表しました。

罪を認めたブリトニー選手

ブリトニー・グライナー選手は7月7日の公判で、犯罪を犯す意図は無く大麻を荷物に入れようと考えていませんでしたが、急いで荷造りをした結果荷物に入ってしまったと述べました。

ロシア政府の提案

解決へ向けて、ロシアは人質交換を望んでいると多くのメディアが報じています。

具体的に名前が上がっているのは、6カ国語を操り、ソ連崩壊後に旧ソ連の兵器を闇市場で世界に販売し、反政府勢力の武器調達に加担するなど、死の商人と呼ばれるビクター・ブート(Viktor Bout)。

彼を解放すれば、新たな戦争やテロの火種となりかねないことから、今回の対応をバイデン政権が誤ると大きな問題になりかねません。

米国政府はどう動く?

今回、不当な拘束と米国ホワイトハウスが断言していますが、ブリトニー・グライナー選手は大麻抽出物は自らの持ち物であることを認め、ロシア側は犯罪者である彼女を解放するのであれば、米国で収監されているロシア人との交換を迫っている状況です。

個人使用分の大麻抽出物を所持していたスポーツ選手と凶悪犯を交換することが正しいのか。

バイデン大統領の動き次第では、今年11月に迫っている米国の中間選挙のみならず、国際情勢にも影響を与えかねません。

NBAも批判の的に

男子バスケットボール(NBA)は、米国4大プロスポーツの1つとして絶大な人気を誇り選手の年俸は非常に高く平均で9億円とも言われ、ステフィン・カリー(Stephen Curry)選手のようなトップ選手は年俸が4578万ドル(約62億3000万円)に達しています。

対して女子バスケットボール(WNBA)では平均1400万円と、男子と比較すると60倍以上の格差が存在しています。

このような極端なスポーツ界の男女での賃金格差は米国において社会問題となっており、ブリトニー・グライナー選手がロシアに入国した理由はWNBAのオフシーズンにロシアのプロリーグに出稼ぎに行ったためであり、WNBAの半分の選手が海外に出稼ぎに行き国内での安い収入を補っている現状があり、そのような事態を救済してこなかったNBAにも今回批判が相次いでいます。

日本の労働環境においても、旬なトピックの1つに「同一労働・同一賃金」の原則があります。

スポーツ界でも動きがあり、米国サッカー連盟(USSF)は、米国男子代表チームと女子代表チームの出場給などを同じ額支払う協約に合意したと今年5月発表しました。これによってワールドカップ出場時などの賞金も男女の賞金を足して2で割り、世界で初めて男女が同じ額を受け取ることになります。

サッカー界では動き出しているものの、バスケ界では未解決のままとなっています。

同性愛コミュニティも注視

ブリトニー・グライナー選手は同性婚をし、妻がいます。元々WNBAにはレズビアン(女性の同性愛)であることを言ってはいけない空気感がありましたが、彼女は堂々と「Screw that, this is who I am.(そんなことはどうでもいい、これが私だ)」と公言しました。

LGBTや多様性を理解し、今まで虐げられてきた人々に救済をという声。米国での妊娠中絶禁止が先日合憲判断されたように同性婚を禁止にという保守派の声も強まっています。

筆者の考え

バイデン大統領は、大統領選挙中に大麻所持の非犯罪化、過去の大麻犯罪記録の抹消、州による大麻法改正の権利の尊重など、大麻改革を公約に掲げ大統領選挙で当選しています。

しかし、未だに動く気配はありません。

米国では、大麻の所持ぐらいで逮捕して収監するなんて馬鹿げているという国民の考えがあります。

ロシア政府に、米国でも違法である大麻の所持で逮捕したと言われないよう、連邦法で早く大麻を解禁してほしいと願います。

米国が動けば、国連も動き、日本も同様に動くと考えています。

石井 竜馬

麻マガジン創設者兼編集長。海外の大麻企業に投資家として関わる。会社を売却し標高1,000mの山の中で井戸を掘り、湧き水と共に家族で農的暮らし。珈琲焙煎士でもある。ヨガ歴20年。

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