つわりや妊娠悪阻による大麻使用、8割以上が症状の改善を報告

つわりや妊娠悪阻に対し大麻を使用した妊婦の8割以上が症状改善を報告

2022年5月6日、つわりや妊娠悪阻に対し大麻を使用した人のうち、8割以上が症状の改善を報告した論文が、アメリカの研究者らにより公開されました。

つわりは妊婦の50〜80%で発症し、特に初産婦でよくみられます。妊娠5〜6週間ごろからみられ、ほとんどが妊娠12〜16週頃までに自然に消失していきます。

妊娠悪阻とは、つわりが悪化することで嘔吐を頻回に繰り返し、5%以上の体重減少・脱水・代謝異常を認めた状態を言います。最悪の場合、脳に炎症や壊死を起こし意識障害をもたらすウェルニッケ脳症を発症することがあります。そのため、妊娠悪阻は通常入院加療となり、輸液管理や食事療法、必要最低限の薬物療法などが行われます。

この研究では、妊娠中あるいは妊娠経験のある550名に対しオンラインでアンケートを行い、つわりによる体重変化や制吐剤の使用状況、そして大麻の使用状況について調査されました。

調査の結果、回答者のほとんど(84%)がつわりにより5%以上の体重減少を報告しました。回答者の96%がつわりにより制吐剤を処方された経験を持ち、最も多く処方されたのはオンダンセトロンでした(なお、日本ではメトクロプラミドがよく使用されます)。

妊娠中に大麻を使用したと回答した人は76名(14%)であり、このうち妊娠前から大麻を使用していたのは28%でしたが、大多数(71%)が妊娠してから大麻を使用したと回答しました。

つわりのために大麻を使用した理由として最も多かったのは、「処方薬が効かないから」でした(71%)。

続いて、大麻・オンダンセトロン・オンダンセトロンを含む制吐剤全般の使用による、つわり症状や体重減少の改善状況が比較されました。

つわり症状の改善は大麻使用者の82%、オンダンセトロン使用者の77%、制吐剤全般使用者の60%で報告されました。

つわり症状の改善を認めた割合

つわりにより体重減少を認めたグループのうち、治療開始後2週間以内に体重増加が報告されたのは、大麻使用者で56%、オンダンセトロン使用者で30%、制吐剤全般使用者で23%でした。

統計分析上、大麻よりもオンダンセトロンのほうがわずかにつわり症状の改善を認めていましたが、有意な差ではありませんでした。また、大麻によるつわり症状の改善は、制吐剤全般と比べて3倍の頻度で認められることが示されました。体重減少における治療開始後2週間以内の改善は、大麻で最も高い有効性が示されました。

大麻使用によりつわり症状が改善したと報告した人のうち、大多数(61%)が毎日あるいは1日に複数回大麻を使用しており、摂取方法として多かったのは喫煙(68%)でした。また多く(57%)がTHC(テトラヒドロカンナビノール)のみ、あるいはTHC優位の大麻を使用しており、CBD(カンナビジオール)のみ、あるいはCBD優位の大麻を使用していたのは24%でした。

体重の改善はTHC優位の大麻、CBD優位の大麻で同程度で認められました。一方つわり症状では、THC優位の大麻のほうがCBD優位の大麻よりも9倍以上の頻度で改善が認められていました。

調査ポイントをまとめると

・つわりのために大麻を使用した人は少数であったが、使用者の82%でつわり症状の改善が報告された。

・大麻は制吐剤よりも、つわりによる体重減少を改善するのに優れていた。

・体重減少に対してはCBDもTHCも同程度の改善を報告したが、つわり症状に対しては、CBDよりもTHCのほうが9倍以上高い有効性を示した。

2006年のカナダの研究では、つわりのために大麻を使用した40名のうち、37名(92.5%)が大麻を「非常に有効」あるいは「有効」と評価しました。

2020年のイスラエルのケースシリーズでは、妊娠悪阻患者4名において大麻の有効性が示されました。

これらの研究結果は、大麻がつわりや妊娠悪阻に対し有効である可能性を示しています。ですが、妊娠中の大麻使用は一般的に悪影響を示す報告が多いという事実もあります。ただしそれらの報告には一貫性がなく、まだ大麻が胎児に及ぼす影響は結論に至っていません。

ただし、つわりが悪化し妊娠悪阻にまで至ると、妊婦の健康を害するだけでなく、低出生体重児や早産、発達遅延などの子どもにおけるリスクも上昇します。そして今回の研究でも分かるように、現在の処方薬では一定数の人において効果が不十分であるという課題もあります。

これらのことを考慮すると、大麻やカンナビノイドの胎児に対する安全性の評価が、今後ますます重要なものとなっていきそうです。

廣橋 大

精神病院に勤める現役看護師。2021年初頭より大麻使用罪造設に向けた動きが出たことをきっかけに、麻に関する情報発信をするようになる。「Smoker’s Story Project」インタビュアー。

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