イスラエル、医療用大麻処方ライセンスを廃止し保険適用とする改革実施へ

イスラエル、医療用大麻処方ライセンスを廃止し保険適用とする改革実施へ

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医療用大麻において古い歴史を持つイスラエル。イスラエルは1990年代に初めて医療用大麻ライセンスを発行しており、また、THCの単離やエンドカンナビノイドシステムを同定した「カンナビノイド研究の父」ラファエル・ミシューラム博士の活躍の場所でもあります。

しかしながら、世界でグリーンラッシュが起きている中で、イスラエルの大麻産業は様々な問題により、現在衰退している状況となっています。

これに対し、イスラエル政府は医療用大麻処方におけるライセンス制度を廃止し、国民健康保険の適用とすることで、医療用大麻のアクセス拡大に向けた改革を実施しようとしています。

イスラエルで起こっている問題

事の発端は2019年末、イスラエル政府が医療用大麻の輸入を正式に認めたことにあります。

イスラエルの国民は約900万人で、医療用大麻市場の運営に必要な企業数は10社程度と言われていますが、実際にイスラエルに存在している大麻企業はおよそ50〜60社。また、現在医療用大麻の需要は年間で約52トンとされていますが、大麻生産量は国内だけで約100トンにも及びます。

このように業界が飽和状態であるにも関わらず、政府は国外からの大麻の輸入を認め、以降、年間10トンの大麻が国外から輸入されています。つまり、イスラエルの大麻市場はより激しい顧客の争奪戦を強いられることになったということです。

企業はこの状況に対応しなければなりませんでしたが、政府が何らかの対策をとると期待した部分もあり、多くの企業がそのまま苦境に陥っています。結果として2022年には、証券取引所に上場していた大麻企業15社のうち4社が撤退しています。

国内有数の大麻企業「Panaxia社」も、2022年に国内市場からの撤退を表明。しかし、この企業は2年近く前からヨーロッパに市場を拡大しており、もはやこの厳しい国内市場に利点を見出だせなくなったために撤退したとしています。そして、他のいくつかの企業もこの動きに呼応する動きをみせています。

とはいえ、2022年8月時点での政府の発表によれば、国内で医療用大麻の治療許可を受けている患者は約114,000人いるとされており、患者数は伸びをみせています。最も多く処方されているのはドライフラワーで、次いで抽出物(オイル)となっています。

医療用大麻の処方プロセスには、2つのルートがあります。1つ目は、保健省から専門的な訓練を受け、認定を受けた医師が処方するルート。もう1つは、一般の医師が医療用大麻による治療が必要だと判断し、保健省に申請して許可を得てから処方するルートです。

処方は自由診療の枠で行われ多額の費用が必要となるため、一部の層は治療が受けられない状況となっています。

大麻の処方が認定された医師の中には、この制度を悪用し患者からさらに多額の費用を請求する者もおり、これにより逮捕者が出たことも報道されています。こういったこともあり、ここ最近では、患者数も伸び悩み始めているようです。

新たな改革

このような状況に対し、イスラエル政府はどのように対応するのでしょうか。

医療用大麻に古い歴史を持つイスラエルは、これまで様々な改善を行っています。

例えば、医療用大麻は当初がんのみに適応となっていましたが、現在その適応はパーキンソン病トゥレット症候群多発性硬化症てんかん、神経障害性疼痛などの慢性疼痛、エイズ、炎症性腸疾患PTSD、終末期の緩和ケアなどにまで拡大されています。

2020年には、医療用大麻の価格を引き下げる規制を決定。また、このタイミングでCBDを危険ドラッグリストから除外することも発表していますが、これに関しては未だ実現していません。

イスラエル保健省は2022年8月、新たな改革案の初期バージョンを公表。この改革案は、医療用大麻の処方においてライセンスを不要とすることが定められています。つまり、特別に認定された医師でなくても、あるいは保健省に許可をもらわなくても、あらゆる医師は患者に必要と判断すれば、他の薬と同じように医療用大麻を処方することが可能になるということです。

そして今回、2023年1月中旬には、この改革案の修正バージョンが発表され、ライセンス制度に代わり、国内の4つの公的医療保険機関が担当する新たな処方モデルを導入することを規定しています。これが実現すれば、患者は保険適用のもとで医療用大麻の処方を受けることが可能となり、大幅に費用負担が軽減されることになります。

イスラエルの大麻企業「Kanabo社」のCEOアビフ・タミール(Avihu Tamir)氏によれば、この改革案が数ヶ月以内に実施されれば、患者数は現在の2倍になるだろうと予測。

保健省副大臣であるモーシェ・アーベル(Moshe Arbel)氏は「これは何万人にも影響を与える重要なステップであり、一箇所で包括的な対応を行うことの重要性を象徴している。私たちのシステムは、治療の管理者である健康保険基金に基づくことになる。大麻が治療手段であると信じられているのであれば、薬が提供される場所にそれを統合する必要がある」と述べています。

BusinessCann「New Reforms Could See Israeli Medical Cannabis Patient Numbers Double」https://businesscann.com/new-reforms-could-see-israeli-medical-cannabis-patient-numbers-double/

services and government information website「The Ministry of Health publishes for public comments the outline of the reform to transition from licenses to prescriptions for the use of medical cannabis」https://www.gov.il/en/departments/news/29082022-02

The Jerusalem Post「Israel’s cannabis industry is dismantling itself from within」https://www.jpost.com/business-and-innovation/all-news/article-726866

The Jerusalem Post「Health Ministry launches historic reform in medicinal cannabis treatment」https://www.jpost.com/israel-news/health-ministry-launches-historic-reform-in-medicinal-cannabis-treatment-640045

MJBizDaily「Israel medical cannabis patient count hits record as imports soar」https://mjbizdaily.com/israel-medical-cannabis-patient-count-hits-record-as-imports-soar/

廣橋 大

精神病院に勤める現役看護師。2021年初頭より大麻使用罪造設に向けた動きが出たことをきっかけに、麻に関する情報発信をするようになる。「Smoker’s Story Project」インタビュアー。

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