ロンドンで大麻の臨床試験に関する国際学術集会が開催
Photo:CT-Cann2023が開催されたホテル「Hilton London Canary Wharf」

ロンドンで大麻の臨床試験に関する国際学術集会が開催

- シェアされた5つの報告

2月15・16日にイギリス・ロンドンにおいて、大麻を用いた臨床試験に関する国際学術集会の第2回目(CT-Cann2023:The 2nd International Congress on Clinical Trials on Cannabis)が開催されました。

会場となったのは、ロンドンのホテル「Hilton London Canary Wharf」。

このイベントでは、医療大麻臨床医協会(MCCS)の協力のもと、第一線の科学者、臨床医、業界の専門家が集まり、現在の研究戦略を改善する方法を探るとともに、新たな発見や将来に向けた道筋についての議論が行われました。具体的に焦点が当てられたのは臨床方法論、規制問題、薬理学的考察、処方の実際に関するアドバイスなど。

今回はイギリスの医療用大麻メディア「Cannabis Health News」の記事と実際の論文を参考に、このイベントでシェアされた5つの報告について、簡単にご紹介します。

目次

不安障害に対するCBDフルスペクトラムオイルの有効性

世界トップレベルの名門ハーバード大学所属の精神科医ステイシー・グルーバー氏によって実施されたオープンラベルの臨床試験。

※オープンラベル試験とは?

患者・治療者共に何の薬を使用しているのか把握した状態で行われる臨床試験。プラセボ効果が認められやすく、バイアス(偏り)もかかりやすいため、エビデンスレベルとしては低いとされる。

不安障害患者14名に対し、CBDフルスペクラムオイルを4週間使用することにより、不安だけでなく、抑うつ気分などの否定的感情や睡眠の改善も認められたことが報告されています。

この臨床試験については以前記事にしていますので、詳しくはこちらをご参照下さい

歯周炎に対するCBDの有効性

細菌感染によって歯や歯茎の周りに炎症が生じる疾患の総称を歯周病と呼び、その中でも歯茎に生じた炎症を歯周炎と呼びます。

チェコに拠点を置く研究者らは、歯科分野におけるCBDの潜在的な利点や欠点について研究を続けており、昨年にはこれに関するレビュー論文を公開しています。

今回この研究者らは、CBD入りの歯磨き粉と、クロルヘキシジンを含んだデンタルジェル(CORSODYL)を比較した二重盲検試験の結果について報告しました。

※二重盲検試験とは

何の薬を使用しているのか、患者・治療者共に把握できない状況で行われる治験。バイアスがかかりにくくなるというメリットがある。

その結果、両群間で有意差が認められたことが明らかになったとのこと。CBDを56日間使用した歯周炎患者では、副作用がみられることなく、歯肉指標(重度の炎症によって引き起こされる出血)が有意に改善したといいます。

なお、昨年末にはイスラエルの研究者らにより、虫歯の主な原因菌である「ストレプトコッカス・ミュータンス」に対し、CBDが殺菌・予防効果を示したことが報告されています

大麻抽出物が脳腫瘍の生存率を高める可能性

脳腫瘍には、神経膠細胞(グリア細胞)から発生する神経膠腫(グリオーマ)と呼ばれる腫瘍があります。グリオーマの中でも膠芽腫(グリオブラストーマ)という腫瘍は最も悪性度が高いことで知られており、進行が早く、予後が極めて低くなっています。

オーストラリアの研究者たちは、手術不能な進行性の神経膠腫患者を対象に、大麻抽出物を使用した12週間の臨床試験を実施。患者のおよそ9割は膠芽腫に罹患していました。

登録された患者は88名。患者は2つのグループに分けられ、一方のグループはTHC:CBD=1:1(THC4.6mg/ml、CBD4.8mg/ml)を含むオイル(以下、同比率群と表記)、もう一方のグループはTHC:CBD=4:1(THC15mg/ml、CBD3.8mg/ml)を含むオイル(以下、THC主体群)を、それぞれ夜に1回使用することにより、12週間治療が行われました。

少なくとも83名(平均年齢53.3歳)が4週間治療を継続し、忍容性が良好だった平均投与量は同比率群(41名)で2.25ml/日(THC10.35mg:CBD10.8mg)、THC主体群(42名)で1.8ml/日(THC27mg、CBD6.8mg)。

頭部MRIによる評価を受けた53名のうち、10.9%(同比率群4名、THC主体群4名)で腫瘍の減少が認めれ、34.1%(同比率群14名、THC主体群11名)は安定して経過。16%(同比率群6名、THC主体群6名)で腫瘍のわずかな増殖、10%(同比率群1名、THC主体群7名)で腫瘍の増殖が認められました。この評価では、同比率群とTHC主体群との間で有意差は認められませんでした。

脳腫瘍患者のQOLを評価するFACT-Brでは、「身体領域」と「機能領域」において、THC主体群より同比率群で有意な改善が報告されました。また、一般化推定方程式(GEE)と呼ばれる統計分析の結果、「身体的健康」と「睡眠」において、両群とも同程度で改善が認められたことが明らかとなりました。

論文では全体として、THC主体群よりも同比率群のほうが治療成績が良好であり、今後これをベースとした大規模な臨床試験を実施することを推奨するとしています。

研究自体は12週間で終了していますが、その後もフォローアップは継続。47%の患者が生存し、中には7年半生存した患者もいたそうです(神経膠腫の5年生存率は5%と言われています)。

退役軍人が抱える「苦しみ」に対する大麻の有効性

カナダで睡眠・覚醒の健康教育を提供する学術プログラム「Sleep Wake Awareness Programme (SWAP)」を指揮するセレステ・サールウェル(Celeste Thirlwell)氏は、これまで国内で6,000名以上もの退役軍人を治療。

彼女のクリニックでは、主に痛みPTSD不眠症外傷性脳損傷(TBI)などの治療のために、医療用大麻を始めとした様々な治療法が用いられています。

彼女が今回シェアしたのは、退役軍人22名を対象とし、医療用大麻がこれらの症状に有効なのか、処方薬の減量に寄与するのかについて研究したものです。

ほとんどの患者がCBDオイルから治療を始め、症状や1日の活動パターンに応じて、THCを含むドライフラワーやベイプなども追加。

患者らは1年以上に渡り、1日平均6gの量で大麻を使用。その結果、標準化されたPTSDチェックリストのスコアが平均67.9から34.5にまで減少(このスコアでは50点以上でPTSDと判断される)。また、睡眠、不安、慢性疼痛の改善も報告されました。

服用していた薬も平均8種類から3種類にまで減少。その結果、胃腸障害、ブレインフォグ(脳に霧がかかったかのように、頭がぼんやりすること)、勃起不全、鎮静、不安の増大、自殺念慮などの薬の副作用が軽減されたといいます。

学術集会でサールウェル氏は「私たちが退役軍人に対する治療で学んだことは、(医療用大麻が)睡眠を改善し、PTSDの症状を減らすことで活動を可能にし、TBIの症状に役立ち、動けるように痛みを改善できるということ。そして何よりも重要なのは、家族との関係性に役立つということです。私たちは大麻による治療で家族を救っています」と述べました。

群発頭痛の発作頻度が大麻で減少

群発頭痛とは、目の周囲からこめかみにかけて発作的に激痛が生じる頭痛のこと。頭痛は1ヶ月以上、毎日ほぼ同じ時間帯に出現し、ひどい人では発作が1時間以上持続します。有病率は0.1%程度で少なく、20〜40代の男性で好発。特にヘビースモーカーや大酒飲みの人にみられます。

今回学術集会に参加したイスラエルのアムノン・モネク(Amnon Monek)医師は2014年、薬で治療効果が得られなかった難治性の群発頭痛患者18名に対し、大麻による治療を実施

これらの患者は平均8.5年間群発頭痛を患っており、このうち12名はほとんど毎日1〜6回の発作、それ以外の患者は週に1〜4回発作がみられていました。

大麻の摂取方法は喫煙が好まれ、平均使用量は1g/日。追跡期間は平均1.8年間でした。

その結果、大麻使用により83%(15名)で頭痛の重症度が50%以上軽減し、61%(11名)で90〜100%軽減したことが報告されました。61%(11名)の患者が高い満足度を示し、処方薬の大幅な減少、睡眠やQOLの改善を認めました。

2名のみ、めまいと眠気の副作用により、大麻の使用が制限されたことも報告されています。

モネク氏は学術集会でこの報告をした後、最後に「全体として、私たちは群発頭痛を大麻で治療したことに関して、とても満足しています」と締めくくっています。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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