「悪性中皮腫」というがんをご存知でしょうか?おそらく聞き慣れない人のほうが多いかと思います。
肺、心臓、腹部臓器はそれぞれ胸膜、心膜、腹膜といった薄い膜で覆われており、この部分に発生するがんを「悪性中皮腫」と呼びます。悪性中皮腫は珍しいがんではありますが、この中で80〜85%と最も高い発症頻度となっているのが胸膜に発生する「悪性胸膜中皮腫」です。
悪性胸膜中皮腫の主な原因として知られているのは「アスベスト(石綿)」です。アスベストは天然の繊維状の鉱物で、建材として1960〜1990年頃にさかんに使用されていました。しかしこれを吸い込んでしまうと、15〜40年間の潜伏期間を経て悪性中皮腫を発症するおそれがあることが明らかになり、現在日本ではアスベストの使用は禁止となっています。
とはいえ、潜伏期間を考えると今後も悪性中皮腫を発症する人はいるでしょうし、建築物の解体の際にアスベストを吸入するリスクもあると考えられます(なお、アスベストを含む建築物の解体には諸々法整備がなされています)。
悪性中皮腫の治療は状況に応じて手術や化学療法により行われますが、いずれも予後不良となっており、新たな治療や補助療法が求められています。
そんな中で2022年8月5日、大麻成分CBD(カンナビジオール)とCBG(カンナビゲロール)が悪性中皮腫に対し抗がん作用を示したことがオーストラリアの研究者らにより報告されました。
この研究では、まず試験管内において中皮腫細胞株に対する13種類の植物性カンナビノイドの阻害作用が検証されました。その結果、全てのカンナビノイドにおいて中皮腫細胞株の生存阻害作用が認められました。THCA(テトラヒドロカンナビノール酸)やCBDA(カンナビジオール酸)といった酸性カンナビノイドよりも、THC(テトラヒドロカンナビノール)、CBN(カンナビノール)、CBC(カンナビクロメン)といった中性カンナビノイドのほうが阻害作用が強く、中でもCBDとCBGが最も強力な阻害作用を示しました。
よって研究はCBDとCBGのみに絞られ続行。CBDとCBGは中皮腫細胞株のアポトーシス(細胞死)を誘導し、遊走や湿潤の阻害作用も認めました。
試験管内において有効性が示されたため、今度は中皮腫モデルのラットに対し有効性を検証。抗がん剤投与ではラットの生存率の延長が認められましたが、CBD(40mg/kg)とCBG(100mg/kg)の投与では認められませんでした。
これに対し研究者らは、ラットに使用したCBD・CBGの量が試験管内で中皮腫細胞株に阻害作用を示した量の3倍少なかったことが関係している可能性があるとし、「ナノ粒子」の活用など、より効果的・効率的に投与できる方法(薬物送達方法)を用いれば有効性を示すかもしれないと述べています。