日本人の平均閉経年齢は約50歳と言われており、閉経する前の5年間と閉経後の5年間のおよそ10年間(約45〜55歳)を更年期と呼びます。
そして、この時期に訪れる厄介な存在こそが「更年期障害」です。
更年期障害は、卵巣機能低下によりエストロゲンの分泌が減少し、ホットフラッシュ(のぼせやほてり感、発汗など)や手足の冷え、動悸などの自律神経症状や、イライラ、抑うつ、不安、睡眠障害などの精神症状、それ以外にも関節痛や疲労感など多様な症状が認められる症候群です。
州レベルで大麻の合法化が進むアメリカでは、そんな更年期障害に対し大麻を使用する人々がいるようです。
2022年8月2日、閉経前後における女性の大麻使用状況を調査した結果がアメリカの研究者らにより報告されました。
この調査は2020年3月から2021年4月にかけて、SNSなどを通じてオンラインで行われました。
分析対象となった回答者は258名(閉経前の女性131名、閉経後の女性127名)。このうち全ての項目に回答した人は214名でした。
調査の結果、閉経前の女性では自律神経症状や精神症状を報告した人が閉経後の女性よりも多く、不安やうつ病の有病率も高くなっていました。回答者全体で負担が大きいと報告された更年期症状は睡眠障害、疲労感、活力の低下でしたが、閉経前の女性では不安やホットフラッシュと回答した人が有意に多くなっていました。
大麻の使用歴に関して回答した人は250名で、このうち92%(230名)がこれまでの人生において大麻を使用した経験があることを報告。そしてこの230名のうち86.1%(198名)が現在も大麻を使用していると回答しました。
現在の大麻使用者の半数以上(51.5%)が嗜好かつ医療目的で大麻を使用し、30.8%が嗜好目的でのみ、17.7%が医療目的でのみ使用していました。
大麻の使用方法については1人につき複数回答があり、喫煙(84.3%)、エディブル(78.3%)、ベイピング(52.6%)が多く、閉経前の女性ではエディブルを好む傾向がありました。
大麻使用経験者230名のうち、更年期障害の症状緩和のために大麻を使用したことがあると回答した人は78.7%(181名)で、具体的な症状として多かったのは睡眠障害(67.4%)、抑うつ・不安(46.1%)、性欲低下(30.4%)でした。閉経前の女性では抑うつ・不安に対し大麻を使用した人が閉経後の女性よりも有意に多くなっていました。また、症状の数や重症度は大麻使用と有意に関連していることも示されました。
「更年期障害に対する大麻やカンナビノイドの今後の研究に関心があるか?」という質問に対して回答した人は214名で、78.5%が「YES」と回答しました。
大麻は主にエンドカンナビノイドシステムに作用することで医療効果をもたらすと考えられています。
主なエンドカンナビノイドの1つであるアナンダミドは卵巣においても生成され、さらにアナンダミドの量はエストロゲンやゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)の分泌と正の相関があることが示されています。
エストロゲンの投与はマウスなどにおいて抗不安作用を示すことがあり、実際に2007年の研究では卵巣摘出マウスにエストロゲンを投与することにより抗不安作用が認められましたが、この作用はCB1受容体拮抗薬により消失しています。さらにこのマウスに対してアナンダミドの分解酵素であるFAAH(脂肪酸アミドヒドラーゼ)を阻害する薬(つまり、アナンダミドの量を増やす薬)を使用することで、抗不安・抗うつ作用が認められています。
これらのことから、エンドカンナビノイドシステムと女性ホルモンは密接に関係していると考えられ、大麻が更年期障害に対し有効であるという可能性は決して否定できるものではないでしょう。